2011年金商法改正~適格投資家向け投資運用業について

Davis LLP Banking & Financial Services Bulletin


1 はじめに

2011年の金商法1改正のうち主な改正事項の一つとして適格投資家向け投資運用業に関する規制緩和が挙げられる。当該改正は2012年4月1日施行予定であるが、2011年11月4日に公表された金商法改正に係る政府令案(以下「本政府令案」という。)では、この適格投資家向け投資運用業に関する改正事項の詳細が明らかにされた 2 。本レターでは、本政府令案を踏まえて適格投資家向け投資運用業に関する改正のポイントを概説する3


2 適格投資家向け投資運用業の概要

適格投資家向け投資運用業とは、投資運用業のうち、(a) 全ての運用財産に係る権利者が適格投資家のみであり、かつ、(b) 全ての運用財産の総額が200億円以下であるものをいう(金商法第29条の5第1項、金商法施行令案第15条の10の3)。これまで金商法上の投資運用業を行おうとする場合には、原則として、金商法上の登録が義務付けられ、5000万円以上の最低資本金・純財産要件があることや取締役会・監査役設置会社又は委員会設置会社たる株式会社であることが要件であるなど比較的厳格な参入要件が必要とされてきた(金商法第29条の4第1項第4号、第5号イ、ロ)。しかしながら、2011年金商法改正では、このような投資運用業の厳格な参入要件を緩和する観点から、適格投資家向け投資運用業の参入要件に関して最低資本金・純財産要件が1000万円以上となり(金商法施行令案第15条の7第1項第5号、金商法施行令第15条の9第1項)、株式会社要件については監査役設置会社又は委員会設置会社であることを要件とするなどの規制緩和が行われた(金商法第29条の5第1項)。


3 適格投資家の範囲、運用財産の要件

第一に、適格投資家向け投資運用業の要件の一つである適格投資家4 の範囲については、特定投資家(適格機関投資家、国、日本銀行、資本金5億円以上の株式会社など)がこれに該当するほか、本政府令案によれば、(a) 保有する金融資産の合計額が3億円以上の法人、(b) 保有する金融資産の合計額が3億円以上、かつ、有価証券取引又はデリバティブ取引を開始して1年以上経過している個人など5が適格投資家に該当する(金商法第29条の5第3項、金商業等府令案第16条の3)。また、金融商品取引業者の親会社等、役員及び登録申請書に記載される使用人も適格投資家に含まれる(金商法第29条の5第3項、金商法施行令案15条の10の5)。

ただし、適格投資家に当たらない者が投資家として存在する投資ファンドなど規制の潜脱と類型的に見られる者については明文上適格投資家から除かれている。具体的には、(A)その発行する特定社債・優先出資などの資産対応証券を適格投資家以外の者が取得している資産流動化法上の特定目的会社、(B)有価証券に対する投資事業に係る契約その他の法律行為で適格投資家以外の者を相手方とするものに基づき当該相手方から出資又は拠出を受けた金銭その他の財産を充てて当該投資事業を行い、又は行おうとする者(ただし、当該投資事業に係る財産の運用が投資運用業を行う金融商品取引業者等により行われる場合は除かれる。)及び(C)その発行する社債、株式等の有価証券を適格投資家以外の者が取得している特別目的会社が適格投資家から除かれる(金商法第29条の5第4項、金商業等府令案第16条の4)。

適格投資家の該当性判断の場面では、金商法上の特定投資家と一般投資家間の移行制度が適用されないため(金商法第34条の2第5項・第8項、第34条の3第4項・第6項)、当該適格投資家向け投資運用業を行う金融商品取引業者との関係で、一般投資家から特定投資家に移行したとしても、適格投資家向け投資運用業の要件との関係では、特定投資家への移行をもって適格投資家に該当しないこととなり、逆に、特定投資家から一般投資家に移行した者は、引き続き適格投資家に該当することとなる。
適格投資家の該当性判断との関係で実務上問題となり得る点として、個人や法人の保有する金融資産をどのように確認すべきかという点が挙げられる。この点については、特定投資家に移行することができる個人の要件のうち投資資産要件(金商業等府令第62条第1項第2号)の確認方法における考え方6が参考になるであろう。例えば、顧客の保有する金融資産の確認のため、顧客の自己申告の内容及び顧客が提出した客観的な資料(証券口座の有価証券残高明細など)等を活用することとなると思われるところ、当該確認方法が事後的にも検証可能であるようにしておくことが最低限必要と思われる。

第二に、適格投資家向け投資運用業の二つ目の要件である全ての運用財産の合計額については、本政府令案では、200億円以下とされた(金商法施行令案第15条の10の3)。


4 業規制(参入要件)

前述のように通常の投資運用業を行おうとする者の最低資本金・純財産要件は、5000万円であるのに対し、適格投資家向け投資運用業を行おうとする者については、1000万円とされた。

また、通常の投資運用業については、取締役会・監査役設置会社又は委員会設置会社たる株式会社であることが要件とされているのに対し、適格投資家向け投資運用業については、監査役設置会社又は委員会設置会社たる株式会社(外国会社の場合については、監査役設置会社又は委員会設置会社と同種類の法人)であることで足りる。
さらに、適格投資家向け投資運用業を行おうとする者の登録審査の際に審査対象となる人的構成(体制)については、運用方針や運用財産の額など、行おうとする適格投資家向け投資運用業の状況に応じた審査がなされる旨が金商業者等向けの監督指針案で示されており、小規模に投資運用業を行う場合における人的構成も許容されることとなった(金商業者等向けの監督指針案VI-2-7-1(1)、(2)及びVI-3-1-2(1)、(2))。実務的には、適格投資家向け投資運用業の登録審査において必要とされる人的構成(体制)の基準については、業者に応じて個別的な審査がなされることから一律に述べることはできないと思われるが、運用業務やコンプライアンス業務などを担当する部門又は担当者について監督指針案に示される程度の実務経験を有する者7が配置されていることが必要であろう。


5 行為規制

適格投資家向け投資運用業の登録をした金融商品取引業者も金融商品取引業者である以上、金商法上の行為規制が適用される。なお、一般に、金融商品取引業者に適用される行為規制のうち金商法第45条各号に列挙されているものについては、取引の相手方が特定投資家の場合に行為規制が適用免除される。この点、特定投資家に該当しない適格投資家との関係では、適格投資家向け投資運用業を行う金融商品取引業者に適用される行為規制が適用免除されないものの、一般投資家から特定投資家に移行した適格投資家に対する関係では行為規制が適用免除され得る。このように、参入要件としての適格投資家の該当性の判断の場面と行為規制の適用の場面での特定投資家の移行制度の取扱いが異なることには注意を要すると思われる。

また、適格投資家向け投資運用業を行う金融商品取引業者に対する行為規制として、内閣府令案では、権利者又は権利者となろうとする者の属性の確認及び権利者の有価証券の売買その他の取引の動向の把握その他の方法により、適格投資家以外の者が権利者となることを防止するための必要な措置を講じることが義務付けられた(金商業等府令案第123条第1項第13号の2)。この内閣府令案で義務付けられる措置の具体的な内容については、金商業者等向けの監督指針案で示されていることから(金商業者等向けの監督指針案VI-3-1-2(3)②)、これに留意する必要がある。


6 適格投資家を相手方として行う私募の取扱い

従来、発行者以外の投資運用者が行う投資信託受益証券等の私募の取扱いを行う業務は、第一項有価証券の勧誘として第一種金融商品取引業に該当した(金商法第28第1項第1号)が、これは委託者指図型の投資信託受益証券の発行者が行う自己募集・私募が第二種金融商品取引業に該当すること(金商法第28条第2項第1号)や投資法人の資産運用会社が行う当該投資法人の発行する投資証券等の募集・私募の取扱い等が第二種金融商品取引業に該当すること(投信法第196条第2項)と比べて厳しい規制であった。

そこで、2011年の金商法改正では、適格投資家向け投資運用業の参入要件の規制緩和に関連して、適格投資家向け投資運用業を行う金融商品取引業者が行う所定の要件を満たす場合の私募の取扱いを行う業務について第二種金融商品取引業とみなすこととする規制緩和が行われ、当該業務の参入要件が緩和された。具体的には、適格投資家を相手方として私募の取扱いを行う業務が第二種金融商品取引業とみなされるためには、(a) 適格投資家向け投資運用業の登録を受けた金融商品取引業者が、(b) 投資一任契約に基づき投資信託受益証券又は投資証券・投資法人債券等に係る運用財産の運用権限の全部の委託を受けた場合において、(c) 適格投資家を相手方として行う当該有価証券の私募の取扱い(適格投資家以外の者への所定の転売制限8が付されている場合に限る。)を行う業務であることが必要である(金商法第29条の5第2項)。かかる私募の取扱い業務が第二種金融商品取引業とみなされることにより、当該業務に係る最低資本金要件が1000万円となり、適格投資家向け投資運用業の最低資本金要件と整合的なものとなった。


7 今後の展望

従前、運用財産に係る投資家がいわゆるプロ(適格機関投資家)に限られることを想定した投資運用業を行おうとする者であっても、特に海外の業者の場合に顕著と思われるが、金商法における投資運用業の参入要件が厳格であったために、参入を躊躇する場合が多かったのではないかと思われる。この点、行おうとする投資運用業の形態が集団投資スキームに係る投資運用業である場合には、適格機関投資家等特例業務の届出(金商法第63条第2項)により投資運用業を行うことが可能であったが、投資信託又は投資法人に係る投資運用業や投資一任契約に係る投資運用業の場合、上記の届出のような緩和された参入方法が存在しなかった。また、投資信託・投資法人スキームで運用財産の運用権限の委託を受けた者が自ら投資信託受益証券等の販売勧誘を行いたいというニーズもあったように思われるが、第一種金融商品取引業は参入要件が厳格なことから参入が躊躇されたと思われる。したがって、今回の金商法改正により、より多様な者が投資運用業及び有価証券販売勧誘に係る業務に参入することが期待されるところである。


以上



1本レターでは、以下の略語を用いる。金融商品取引法=金商法、金融商品取引法施行令=金商法施行令、金融商品取引業者等に関する内閣府令=金商業等府令、投資信託及び投資法人に関する法律=投信法、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針=金商業者等向けの監督指針

2本政府令案に関連して、2011年11月22日に金商業者等向けの監督指針の改正案が示されている。

3なお、本政府令案のパブリックコメント等を踏まえて、実際に施行される政府令は変更があり得る。

4「適格投資家」の概念は、従来の「適格機関投資家」又は「特定投資家」とも異なる新たな概念であり、2011年金商法改正により新たに設けられた。

5その他、保有金融資産の合計額が100億円以上の厚生年金基金・企業年金基金、ファンドのGP等として保有する金融資産の合計額が3億円以上である当該GP等である法人・個人も適格投資家に含まれる(金商業等府令案第16条の3)。

62007年7月31日に公表された「『金融商品取引法制に関する政令案・内閣府令案等』に対するパブリックコメントの結果等について」における金融庁の考え方202頁No.30~No.41参照。

7金商業者等向けの監督指針案では、投資運用業の体制審査に関して、(a) 資産運用者については運用資産に関して少なくとも1年以上助言・運用業務に従事していた者が1名又は2名以上確保されていること、(b) コンプライアンス部門(担当者)については、金融商品取引業に関して少なくとも1年以上法令等遵守の指導に関する業務に従事していた者が1名又は2名以上確保されていること、(c) 行おうとする業務について、本監督指針VI-3-1-1(1) ①ヘaからmまでに掲げる体制整備に必要な要員が1名又は2名以上確保名以上確保されているかという点などを審査項目としている(金商業者等向けの監督指針案VI-3-1-2 (2) ①ないし③)。

8具体的な転売制限の内容は、本政府令案で明らかにされた。すなわち、当該有価証券の発行者と当該有価証券の取得勧誘に応じて当該有価証券を取得しようとする者の間及び当該取得勧誘を行う者と当該取得者の間で、(a) 当該取得した有価証券を適格投資家以外 適格投資家以外の者に譲渡しないこと、及び、(b) 当該取得した有価証券を譲渡する場合には、その相手方に対して、当該有価証券の売付け勧誘等を行う者と当該有価証券の買付けを行おうとする者との間で、当該買い付けた有価証券を適格投資家以外の者に譲渡しない旨を定めた譲渡に係る契約を締結することが買付けの条件とされていることを告知すべきこと、を定めた譲渡に係る契約を締結することを取得の条件として行われるものであること(金商法施行令案第15条の10の4、金商業等府令案第16条の2)である。

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